むかしむかし、右の頬に大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。働き者だったので、こぶがあっても気にせず、いつものように山へ木を切りに出かけていました。
ある日の夕方、空がにわかにかき曇り、激しい雨が降り出しました。おじいさんは大きな木のうろを見つけ、そこでしばらく雨やどりをすることにしました。やがて疲れて、うろの中でうとうとしてしまったのです。
真夜中、外からにぎやかな笛や太鼓の音が聞こえてきました。そっとのぞいてみると、ぞっとするような姿の鬼たちが、たき火を囲んで宴会を開いていたのです。
鬼たちはお酒を飲んだり歌ったりして、それは楽しそうでした。最初はこわくてふるえていたおじいさんも、見ているうちにだんだん気持ちがうきうきしてきました。
おじいさんはもともと踊りが大好きだったので、こぶがあるにもかかわらず、思わず外へ飛び出し、鬼たちの輪の中で踊り始めました。手や足の動きはなめらかで、表情も生き生きとしています。
「これは見事な踊りじゃ」と鬼の親分は手を打って大喜びしました。宴会は夜明け近くまでにぎやかに続き、おじいさんも踊り疲れるまで楽しみ続けたのです。
「明日の夜もぜひ踊りに来てくれ。約束を破らないように、お前のこぶをわしらが預かっておこう」と親分は言い、おじいさんの頬から大きなこぶをきれいに取り去ってしまいました。
びっくりするほど軽くなった頬を撫でながら、おじいさんは夜明けの山道を大喜びで家へ向かいました。事のしだいを聞いたおばあさんも、おじいさんの顔を何度も見つめては泣いて喜んだということです。
この話は、たちまち村中に広まりました。隣に住む、左の頬にこぶのあるおじいさんは、それを聞いて「自分も鬼に頼めば、こぶを取ってもらえるに違いない」と考えました。
その夜、隣のおじいさんは同じ山へ出かけ、同じ木のうろに隠れました。やがて鬼たちの宴会が始まると、彼は無理やり輪の中に飛び込んで踊り出しました。
しかし、隣のおじいさんは踊りが下手で、ぎこちなく足を踏んでばかりいます。鬼たちは「これではせっかくの酒もまずくなる」と腹を立て、「もう来るな。これを返してやるから帰れ」と怒鳴りました。
そして、昨日預かった大きなこぶを、隣のおじいさんの右の頬にくっつけてしまったのです。結局、隣のおじいさんは両方の頬に重たいこぶを抱えて、すごすごと家に帰るしかありませんでした。同じことをしたつもりでも、心がけ次第で結末はずいぶん違うものですね。