羊飼いのメロスは、激しく怒った。必ず、あの残虐で身勝手な王を除かなければならないと決意した。彼は妹の結婚式の支度を整えるべく、はるばるシラクスの市まで出てきた、まことに素朴な若者だった。
メロスは市を歩き回り、買い物を済ませようとした。しかし、夜の都の様子は、二年前に来た時とはまるで違っていた。家々の戸は固く閉ざされ、人々の顔には何かおびえたような色が浮かんでいた。
メロスはひとりの老人をつかまえて、その理由を尋ねた。老人は声をひそめて告げた。「王様は、人を殺すのでございます。ご自身の妃も、王子も、それから親類や家臣に至るまで、信頼に値する者は誰一人いないと、片端から処刑しておられるのです」と。
メロスはこれを聞いて、激しい怒りに身を震わせた。「そのような王を、生かしてはおけない」と、彼はその場で剣を手にし、まっすぐ王城へと向かった。市の人々は、彼の振る舞いを止めるすべもなく、ただ呆然と見送るばかりだった。
王城に踏み入ったメロスは、ただちに衛兵に捕らえられた。王ディオニスの前に引き出された彼は、いささかも恐れることなく、王の暴政を激しく非難した。「人を信じることを忘れた者には、もはや王である資格はない」と、彼は鋭く言い放った。
ディオニス王は、青ざめた顔で薄笑いを浮かべながら答えた。「人の心とは、いつわりばかりだ。信じるなど、愚か者のすることだ」と。そして、彼はメロスを翌日処刑することに決めた。
メロスは静かに、しかし毅然として、王に願い出た。「妹がおります。三日後に式を挙げる予定でしたので、どうか三日だけ命をのばしていただきたい。式を済ませた後、必ずここに戻ってまいります」と。
王は嘲笑い、「逃げる気だろう、人など信じられるものか」と切り捨てた。しかしメロスは退かず、「身代わりに友のセリヌンティウスを人質として残します。友が裏切ったならば友を殺せばよい、私は必ず戻る」と誓った。