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JLPT N1物語

走れメロス

暴君の王に処刑を宣告されたメロスが、友を人質に残し、三日の約束を守るために走り抜く物語。

羊飼いのメロスは、激しく怒った。必ず、あの残虐で身勝手な王を除かなければならないと決意した。彼は妹の結婚式の支度を整えるべく、はるばるシラクスの市まで出てきた、まことに素朴な若者だった。

メロスは市を歩き回り、買い物を済ませようとした。しかし、夜の都の様子は、二年前に来た時とはまるで違っていた。家々の戸は固く閉ざされ、人々の顔には何かおびえたような色が浮かんでいた。

メロスはひとりの老人をつかまえて、その理由を尋ねた。老人は声をひそめて告げた。「王様は、人を殺すのでございます。ご自身の妃も、王子も、それから親類や家臣に至るまで、信頼に値する者は誰一人いないと、片端から処刑しておられるのです」と。

メロスはこれを聞いて、激しい怒りに身を震わせた。「そのような王を、生かしてはおけない」と、彼はその場で剣を手にし、まっすぐ王城へと向かった。市の人々は、彼の振る舞いを止めるすべもなく、ただ呆然と見送るばかりだった。

王城に踏み入ったメロスは、ただちに衛兵に捕らえられた。王ディオニスの前に引き出された彼は、いささかも恐れることなく、王の暴政を激しく非難した。「人を信じることを忘れた者には、もはや王である資格はない」と、彼は鋭く言い放った。

ディオニス王は、青ざめた顔で薄笑いを浮かべながら答えた。「人の心とは、いつわりばかりだ。信じるなど、愚か者のすることだ」と。そして、彼はメロスを翌日処刑することに決めた。

メロスは静かに、しかし毅然として、王に願い出た。「妹がおります。三日後に式を挙げる予定でしたので、どうか三日だけ命をのばしていただきたい。式を済ませた後、必ずここに戻ってまいります」と。

王は嘲笑い、「逃げる気だろう、人など信じられるものか」と切り捨てた。しかしメロスは退かず、「身代わりに友のセリヌンティウスを人質として残します。友が裏切ったならば友を殺せばよい、私は必ず戻る」と誓った。

王はその提案を受け入れた。これでメロスも逃げ、人と人との信頼など空しい幻にすぎないことを証明できると、ひそかに確信したのである。セリヌンティウスは、何も言わずに深くうなずいて、人質となることを引き受けた。

メロスは夜を徹して走り、村に戻った。妹に事情を告げ、急いで式の支度を進めた。妹もまた、兄の覚悟を察し、涙をこらえて式の支度に取りかかった。

翌朝、雨もよいの中、式は無事に執り行われた。村人たちはメロスの帰還を喜び、彼を引き止めようと躍起になった。しかし、メロスは友のために、再び旅立たなければならなかった。

妹に別れを告げたメロスは、シラクスへの帰路についた。途中、激しい豪雨に見舞われ、橋は流され、川は荒れ狂って、もはや渡るすべもないかと見えた。しかし彼はためらうことなく、激流に身を投じ、流されながらも対岸へとたどり着いた。

山道に差しかかると、待ち伏せていた山賊どもが、彼の前に立ちふさがった。「命が惜しければ、その身につけたものをすべて置いていけ」と、賊どもは口々に叫んだ。

「俺はただ、友を救うために走っている。お前たちに渡す金など持ち合わせていない」とメロスは言い放つとすぐに、剣を抜き、襲いかかる賊どもをなぎ倒した。三人を退けたところで、残りの賊は恐れをなして逃げ散った。

しかし、夏の太陽は容赦なく照りつけ、メロスの力はみるみる失われていった。喉は渇き、四肢は鉛のように重く、ついに彼は道端の草むらに倒れ込んだ。「もう、間に合わないのではないか」という暗い思いが、心の底にかすかに芽生え始めた。

「俺は走り続けて、友を救おうとした。だが、これほどまでに尽くしても、なお間に合わないのなら、それは天の定めにほかならない」と、彼は弱々しくつぶやき、一瞬すべてを諦めかけた。

その時、近くの草陰から、清らかな泉のせせらぐ音が聞こえてきた。メロスは這うようにしてその泉に近づき、両手でひとすくいの水を飲んだ。すると、不思議なことに、彼の中に再び力がよみがえり、立ち上がる気力が湧き上がってきた。

「もう一度、走ろう。たとえ間に合わなくても、友のもとに、この身を捧げよう」とメロスは決意し、再び全力で駆け出した。日が沈み始めた頃、彼は遠くにシラクスの城門を望むに至った。

城門に駆け込んだメロスは、まさに刑場で吊り上げられようとするセリヌンティウスを目にした。「待ってくれ、間に合った」と叫び、群衆の中をかき分けて、友のもとへとたどり着いた。

二人の友は、抱き合って涙を流した。ディオニス王はこれを目の当たりにして、しばし呆然と立ち尽くしていたが、やがて二人の前にひざをつき、「どうか、私も君たちの仲間に加えてはくれないか」と頼んだのである。一人の少女が、ぼろぼろになったメロスに、一枚の赤いマントを差し出した。

— 完 —

走れメロス | 2hongo