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JLPT N2物語

幸福の王子

自分を削って人々に尽くす王子の像のお話。

高い柱の上に、町を見下ろすようにして「幸福の王子」と呼ばれる一体の像が立っていた。全身は薄い純金の葉に覆われ、両の目には大粒の青いサファイアが、剣の柄には真っ赤なルビーが、惜しみなくはめ込まれていた。

町の人々は誰もがその像を仰ぎ見て、「あの王子のように幸せそうに見えればいいものを」と口々に語り合った。だが、その像が抱えている真実の悲しみについては、誰一人として気づく者はなかったのである。

生前の王子は、悲しみなど知るよしもないようなふうに、宮殿の中で毎日を笑って暮らしていた。何不自由のない暮らしの中で、城壁の外にどんな世界が広がっているかなど、考えてみたこともなかった。

しかし、死後にこの高い場所へ立てられてからは、町の隅々で人々が抱える貧しさや悲しみが、嫌でも目に入るようになってしまった。それ以来、王子の金で覆われた頬には、夜になるとひとりでに涙がこぼれ落ちるようになったのである。

ある秋の夜のことであった。エジプトへ渡るのが遅れた一羽の小さなツバメが、王子の足元の柱の上で羽根を休めることにした。「ここなら金で屋根が葺かれた寝床に泊まれそうだ」と、一人ご満悦であった。

ところが、ツバメがちょうど眠りに就こうかという折に、頭上から大きな冷たい水滴が落ちてきた。「雨が降ってもいないのにおかしいな」と上を見上げると、それは王子の流す涙にほかならなかった。

「あちらの貧しい家では、母親が病気の子どもの看病に疲れ果てている。私の剣の柄のルビーを引き抜いて、あの母親に届けてやってくれないか」と、王子は震える声で頼んだ。

ツバメは初め断ろうとしたものの、王子のあまりにも切実な眼差しに負け、結局そのルビーを母親のもとへ運んだ。長旅に疲れていたにもかかわらず、貧しい母子の枕元にそっとルビーを置いてくると、ツバメは温かい気持ちで王子のもとへ帰り着いた。

翌朝、ツバメはいよいよエジプトへ旅立とうとしたが、王子は再び引き留めた。「町の屋根裏で、若く才能ある劇作家が、寒さと飢えのために行き倒れつつあるのだ。今度は私の片目のサファイアを持っていってやってくれないか」と、王子はすがるように頼んだ。

ツバメは「明日こそは出発する」と何度も自分に言い聞かせつつ、王子の言葉を断ることができなかった。サファイアを腕に抱えるようにして、彼は震える劇作家の机のそばまで飛んでいった。

さらに次の日、王子は最後のサファイアをマッチ売りの少女に届けるようツバメに頼んだ。「両目を失ってしまったら、もう町を見ることもできないが、それでも構わない」と王子は言いきった。

目の見えなくなった王子を一人残して旅立つわけにはいかず、ツバメは「もう一生あなたのおそばを離れません」と固く決意した。それからというもの、ツバメは毎日町中を飛び回っては、見聞きしてきたことを王子に語って聞かせた。

「私の身を覆っているこの薄い金箔を一枚ずつはがして、貧しい人々に分けてやってほしい」という王子の言葉に応じ、ツバメは雪の降る町を毎日飛んでは、銀貨と化した金の葉を一枚、また一枚と運び続けた。

やがて王子の像はすっかり金を失い、見る影もない灰色のみすぼらしい姿に成り果ててしまった。けれども、金を分け与えられた子どもたちは久しぶりに腹を満たすことができ、貧しい家々には小さな笑顔が戻ってきたのである。

冬が深まるにつれて寒さはますます厳しくなった。それでもツバメは王子のそばを離れず、ある夜とうとう力尽き、「さようなら、愛しい王子様」と一言告げるなり、王子の足元で静かに息を引き取ってしまった。

その途端、王子の胸の中の鉛の心臓が、大きな音を立てて二つに割れた。それは、ツバメの死を悲しんだあまりのことであったに相違ない。

春になると、町の市長と議員たちは「あんなみすぼらしい像は、もはや町の体面に関わる」と決め、王子の像を引き倒して炉にかけることに決めた。ところが、不思議なことに、像の胸の中の鉛の心臓だけは、どれほど火にくべても溶けてくれなかった。

それは結局、ツバメの亡骸とともに、町外れのゴミ捨て場へぽいと放り投げられてしまった。

しかしその時、天国から地上を見下ろしていた神様は、傍らの天使にこう告げた。「あの町から、この世で最も尊いものを二つだけ持ってくるがよい」と。天使は迷うことなく、王子の鉛の心臓と、その足元に倒れたツバメの亡骸を選び取って、神様のもとへ持ち帰ったのであった。

— 完 —