昔々、武蔵の国に茂作と巳之吉という二人の木こりがいた。茂作はすでに老いていたが、弟子の巳之吉はまだ若く元気であった。ある冬の日のこと、二人が山で木を切っていると、突然猛烈な吹雪に見舞われた。帰るに帰れず、二人は近くの渡し守の小屋に避難するほかなかった。火の気もない冷たい小屋の中で、二人は疲れ果てて眠りについたのである。
夜中、巳之吉は顔に冷たい息がかかるのを感じて目を覚ました。驚いたことに、白装束を着た美しい女が、茂作の上にかがみ込んでいるではないか。彼女の吐く息は白く凍りつくようで、茂作はすでに息絶えていた。「お前も同じようにしてやろうかと思ったものの、まだ若いゆえに命を助けてやろう。ただし、今夜見たことを誰かに話そうものなら、すぐにお前を殺す」と冷たく言い残し、雪女は嵐の中に消えていった。
それから一年が経ち、巳之吉はお雪という美しく気立ての良い娘と出会い、夫婦となった。二人の間には十人もの子供が生まれ、家庭は笑い声に満ちていた。お雪はどれほど年を重ねても若々しく、全く老いる様子はなかった。村人たちも「巳之吉はあんなに美しい妻を持つことができて、本当に幸せ者だ」と羨むほどであった。
ある晩、子どもたちが寝静まった後、巳之吉は針仕事をしている妻の横顔を見つめながら、ふと昔の恐ろしい出来事を思い出した。「こうして見ていると、十八の時に山で出会った雪女のことを思い出す。あの夜の出来事は、夢だったのか現実だったのか、今でも分からないのだ」と、決して話してはならないと言われていた秘密を、つい口にしてしまったのである。
その言葉を聞いた瞬間、お雪は顔を上げ、恐ろしい表情に変わった。「あの時、誰かに話せば殺すと言ったはずです。お前を殺してしまおうかと思う反面、残された子どもたちが不憫でならない。もし子どもたちを粗末に扱うようなことがあれば、私は決して許さないから」そう言い終えるか終わらないかのうちに、彼女の体は白い冷気となり、屋根の隙間から夜空へと消えていった。それ以来、お雪の姿を見た者は誰もいない。