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JLPT N1物語

走れメロス

太宰治による、友との約束と信頼を描く不朽の名作。

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

妹の結婚衣装を買うため、シラクスの市にやって来たメロスは、町全体の様子がひどく暗く、静まり返っていることに気づいた。老爺から事情を聞くと、ディオニス王が人間不信に陥り、次々と罪のない人々、さらには自らの親族までも処刑しているという。この暴挙を許すべからずと憤慨したメロスは、そのまま王の城に忍び込んだが、巡邏の警吏に捕らえられてしまった。

王の前に引き出されたメロスは、王の疑い深い性格を真っ向から非難した。王は冷笑し、メロスを処刑すると宣言した。しかしメロスは、処刑される前に妹の結婚式だけは挙げさせてほしいと懇願した。三日後の日暮れまでに必ず戻ってくると約束し、その身代わりとして、無二の親友であるセリヌンティウスを人質として差し出したのである。

王は、メロスが戻ってくるはずがないと高を括り、セリヌンティウスを殺してメロスの偽善を暴くつもりで、この条件を承諾した。メロスは村へ走り、徹夜で準備を整え、無事に妹の結婚式を済ませた。そして翌日、約束の時間を守るために雨の中を再びシラクスへと向かって走り出した。

道中、濁流に橋を流されたり、山賊に襲われたりと、幾多の困難がメロスの行く手を阻んだ。体力も気力も尽き果て、一度は約束を破って逃げ出そうという誘惑にかられた。しかし、自分を信じて待つ友の命と、人間の信実を守るために、メロスは力を振り絞って走り続けた。疲労の極みに達しながらも、ただひたすらに前へ進んだのである。

ついに日暮れ近く、メロスは刑場に到着した。処刑の直前でセリヌンティウスを救い出したメロスは、自らの心の迷いを友に告白し、友もまた一度だけメロスを疑ったと打ち明けた。二人の熱い抱擁と真の友情を目の当たりにした群衆は涙し、狂王ディオニスすらもその真実に心を打たれたのである。

走れメロス | 2hongo