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JLPT N1故事

山月記山月記

詩才に恵まれながら虎と化した李徵が、旧友袁傪に己の業を語る悲哀の物語。詩才出眾卻化作猛虎的李徵,向舊友袁傪傾訴自身業障的悲哀故事。

李徵は、若くして詩の才能に恵まれた隴西の才能ある若者だった。早くから科挙に合格し、地方の役人として身を立てたが、その傲慢で人を見下す性格のせいで、上司や同僚とうまくやっていけず、心の中でひそかに彼らを軽蔑していた。

李徵是隴西出身的有才能的年輕人,從小就有詩才。 他早年考中科舉,擔任地方官員,但因為性格傲慢、瞧不起人,與上司同僚處不來,心裡暗暗看不起他們。

役人としての生活に嫌気が差した李徵は、ついに官職を辞めて詩作に専念しようと決意した。「平凡な人々と肩を並べて生きるよりも、独りで詩の道を究めて後世に名を残したい」と彼は考えた。妻子のことも顧みずに、故郷に引きこもったのだった。

厭倦了為官生活的李徵,終於決定辭官,專心寫詩。 他想:「與其和平凡的人並肩生活,不如獨自鑽研詩道,把名字留給後世」,於是不顧妻兒,回到了故鄉隱居。

しかし、詩人としての名声は簡単には上がらなかった。月日を重ねるうちに、家の財産は次第に傾き、妻子の衣食すらまともに賄えなくなった。やむを得ず再び役人として働き始め、地方の地位の低い役職に甘んじる身となったが、かつての同僚はすでに高い地位に登っており、彼らの前で頭を下げる屈辱は、李徵の自尊心を絶えず傷つけ続けた。

然而,詩人的名聲並不是那麼容易獲得的。 歲月流逝,家產漸漸衰落,連妻兒的衣食都難以維持。 他不得不再次出來做官,屈居地方上地位低的職位;而過去的同僚早已升上了高位,在他們面前低頭的屈辱,不斷地傷害著李徵的自尊心。

ある夜、公務で旅の途中にあった李徵は、突然狂気に取りつかれた。「誰かが俺を呼んでいる」と叫ぶや否や、宿を駆け出し、闇の中へと姿を消した。供の者がいくら探しても、その行方は分からなくなってしまった。

一天夜裡,公務出行途中的李徵突然被狂氣纏身。 他大喊「有人在叫我」,話一說完便衝出客棧,消失在黑暗之中。 隨從們怎麼找也找不到他的下落。

それから一年余りが過ぎた頃のことである。役人の袁傪が天子の命を受けて南方へ向かう途中、深い山にさしかかった。「この先の深い森には人喰い虎が出るので、日が高く昇るまでは進まない方がいい」と、宿の者は袁傪に強く忠告した。

一年多過去了。 官員袁傪奉天子之命南行,途中來到一片深山。 「前方的深林裡有食人虎出沒,太陽升高之前最好別走」,客棧主人鄭重地警告袁傪。

朝霧の中、袁傪一行が森へ踏み入ったその時、案の定一匹の猛虎が草むらから躍り出た。虎は今にも襲いかかりそうな勢いだったが、突然体を返し、再び草陰へと消えていった。やがて草の奥から、「危ないところだった」と人の言葉でつぶやくような声が聞こえてきた。

朝霧之中,袁傪一行剛踏入森林,果然有一隻猛虎從草叢中跳了出來。 猛虎本來好像就要撲上來,卻突然轉身,再次消失在草叢之中。 不久,從草叢深處傳來像是人話一般的低聲呢喃:「好險啊」。

袁傪は耳を疑った。その声には聞き覚えがあったのだ。「もしや、李徵君ではないか」と呼びかけると、草むらの中からはしばらくむせび泣くような声が漏れ、やがて「いかにも、隴西の李徵である」と低く悲しげな返事があった。

袁傪不敢相信自己的耳朵。 那聲音他聽過。 「該不會是李徵兄吧? 」他出聲呼喚,草叢中先是傳來一陣抽泣的聲音,隨後傳來低沉而悲傷的回答:「是的,我就是隴西的李徵」。

袁傪は涙を抑えきれず、なぜそのような姿になったのかと尋ねた。李徵は深い後悔を込めて、そのいきさつを語り始めた。「ある夜、声に誘われて山中を駆けるうちに、気がつけば四肢は地につき、毛は逆立ち、自分でも自身の運命がすぐには信じられなかった」と、彼は語った。

袁傪忍不住流下眼淚,問他為何變成這樣。 李徵懷著深深的後悔,把經過娓娓道來。 「那一夜,我被一個聲音引誘跑入山中,回過神來時四肢已經著地,毛髮倒立——我自己也無法立刻相信這命運」。

「人として生きていた頃の私の心は、日に一日と虎のそれに取って代わられつつある。この心も尽きれば、私は完全な獣になってしまうだろう」と、李徵は後悔と恐れに満ちた声で言った。

「我作為人活著時的那顆心,正在一天天被虎心取代。 這最後一點人心一旦也盡,我就會徹底變成野獸」,李徵的聲音裡充滿了後悔與恐懼。

なぜ自分が虎になってしまったのか、その理由を李徵は次のように語った。「私には、臆病な自尊心と、尊大な羞恥心があった。だから、師に学ぶこともせず、同輩と互いに高め合うこともなく、ただ独りで詩の才能を磨こうとした」と。

關於自己為什麼變成了虎,李徵這樣說:「我心裡有一種膽怯的自尊心,和一種自大的羞恥心。 正因為如此,我既不肯拜師學習,也不願意和同輩互相切磋共同進步,只想獨自磨練詩才」。

「私は、自分の珠でないことを恐れるあまり、あえて磨こうともせず、半ば自分が珠であることを信じていたために、瓦と並ぶこともできなかった」。彼の言葉は、自分を強く責めるような響きを帯びていた。

「我害怕自己不是真正的珠子,所以不敢琢磨;又半信自己確實是珠子,因而不肯和瓦礫為伍」。 他的話語裡帶著嚴厲地責備自己的語氣。

「世の人々が、私の才能を理解しないのが悪いのだと、ずっと信じていた。しかし今思えば、それは私自身の臆病さの裏返しにすぎなかった」と李徵は嘆いた。彼は、自身の傲慢を恥じ、ようやく真実に目覚めたのだった。

「我一直以為,世人不理解我的才能就是世人的錯」,李徵感嘆道,「但如今想來,那不過是我自己膽怯的另一面罷了」。 他終於為自己的傲慢感到羞愧,真正覺醒過來。

李徵は、虎になるまでに作りためた詩の中から、特に気に入ったもの三十編を、袁傪に書き留めてもらいたいと頼んだ。袁傪は従者に筆をとらせ、虎が口ずさむままに、その詩を記録した。どれも趣深く、第一流の作と評されるべきものだった。

李徵請求袁傪把他變成虎之前所寫的詩中,特別得意的三十篇記下來。 袁傪讓隨從拿起筆,跟著虎的吟誦把詩一一記錄下來。 每一首都意境深遠,稱得上是第一流的作品。

しかし、その詩を聞き終えた袁傪の胸には、ある言いがたい違和感が残った。「これほどの才能を備えていながら、どこか、何かが欠けている」と、彼はひそかに思った。それは、李徵自身の人格における致命的な欠点を、詩そのものが映し出していたのだった。

然而,聽完詩的袁傪心中,留下了一絲難以言說的不安。 「這麼有才華——可總覺得,哪裡少了什麼」,他暗自想。 那正是李徵自身人格中致命的缺點,被詩作本身映照了出來。

詠み終えた李徵は、自分を笑うように一首の即興詩を口ずさんだ。「たまたま狂気の病にとりつかれて別の生き物となり、災いは絶えず襲ってくるが、逃げる方法もない」と。その声には、もはやどんな希望も宿っていなかった。

吟誦完畢的李徵,像是自嘲似的即興吟出一首詩。 「偶然被狂氣之病纏身變成異類,災難不斷襲來,卻也沒有逃脫的辦法」。 那聲音裡,已經沒有了任何希望。

最後に李徵は、袁傪に心からの頼みを述べた。妻子の身を思って、彼らには自身の死だけを伝え、虎となった事実は決して知らせないでほしい、と。「親としての務めを果たさなかった私に、これほどの願いを述べる権利もないだろうが、どうかこの一事を聞き届けてくれないか」と。

最後,李徵向袁傪提出一個發自內心的請求。 請念在妻兒的份上,只告訴他們自己的死訊,絕對不要讓他們知道自己已經變成了虎。 「沒有盡到父親責任的我,本來沒有資格提出這樣的請求,但還是希望你能答應我這一件事」。

袁傪が承知すると、李徵はこう告げた。「もう二度と私の前を通るな。次に出会う時、私は完全な虎となっており、そなたを旧友とは認められないだろう」と。

袁傪答應後,李徵這樣告訴他:「以後絕對不要再從這裡經過。 下次相見時,我已經徹底變成虎了,再也不能把你當作舊友了」。

袁傪一行は、名残惜しい気持ちで深い森を後にした。百歩ほど進んだところで一行が振り返ると、草むらから一匹の虎が躍り出て、月のなお残る空に向かい、二度三度と大きな声でほえた。それは、人として果たせなかった詩才への哀しみと、獣となっていく自分への怒りとが、入り混じった声だった。

袁傪一行人依依不捨地離開了森林。 走了大約一百步回頭一看,只見一隻猛虎從草叢中跳出來,朝著還殘留著月亮的天空大聲吼了兩三聲。 那聲音裡,既有作為人沒能實現的詩才之悲,也有對正在變成野獸的自己的憤怒,二者交織在一起。

虎は再び草むらに身を返し、二度と姿を現すことはなかった。袁傪は、長らくその場に立ち尽くしていた。やがて彼は、書き留めた詩の巻物を懐にしまい、無言のまま馬を進めたのだった。

老虎再次返回草叢,從此再也沒有出現。 袁傪在原地久久站立。 後來他將記下來的詩卷藏進懷裡,默默地驅馬前行。

— 完 —