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JLPT N1物語

プロメテウスの火

人類に火をもたらした神の苦悩と希望の物語。

太古の昔、神々と人間がまだ共に地上に存在していた頃のことである。絶対的な権力を持つゼウスを神々の王とするオリュンポスの神々は、人間たちを無知蒙昧な存在として支配していた。彼らにとって人間は単なる被造物に過ぎず、その繁栄を助ける意思など微塵も持ち合わせてはいなかった。

しかし、ティタン族の一人であるプロメテウスだけは違った。彼は自らが泥から作り出した人間たちに対し、深い愛情と憐れみを禁じ得なかったのである。人間たちは火を知らず、獣のように震えながら暗闇の中で生きていた。プロメテウスは人間たちに知恵と文化を授けるべく、天界から火を盗み出して地上に与えるという、神々に対する重大な反逆を決意した。

プロメテウスは太陽の馬車から火種を盗み、それをウイキョウの茎に隠して人間たちの元へもたらした。火を手に入れた人間たちは、寒さをしのぎ、食べ物を熱し、さらには金属を鍛えて道具を作る術を学んだ。火の力によって人間たちの生活は劇的に向上し、文明が発展し始めたのである。これはまさにプロメテウスの深い慈愛の賜物であった。

しかし、この行為をゼウスが許すはずもなかった。ゼウスの怒りは凄まじく、神の掟を破ったプロメテウスを捕らえ、カウカソス山の絶壁に鎖で縛り付けた。そして、毎日大きな鷲を遣わしてプロメテウスの肝臓をついばませるという、言語に絶する残酷な刑罰を与えたのである。プロメテウスが不死の神であるゆえに、夜になると肝臓は再生し、苦痛は永遠に繰り返されることとなった。

その想像を絶する苦痛に苛まれながらも、プロメテウスは決してゼウスに屈しようとはしなかった。彼にとって、自らの犠牲によって人間たちが光と暖かさを手に入れたことは、何にも代えがたい喜びであったからだ。自らの信念に殉じるその崇高な姿は、いかなる権力者であってもその精神までを縛ることはできないという真理を、後世に語り継いでいるのである。