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JLPT N1物語

源氏物語より

平安貴族の愛と生活を描く世界最古の長編小説。

光源氏が須磨に隠棲していた折の寂寥たる日々のことである。都を遠く離れた海辺の暮らしは、栄華の極みにあったかつての彼には想像もつかぬほどにわびしいものであった。毎夜のごとく吹きすさぶ海風の音に耳を傾けながら、源氏は都に残してきた愛しい人々の面影を偲ばずにはいられなかった。都への郷愁の念は日に日に募るばかりであった。

ある暴風雨の夜、激しい雷鳴とともに天と地が揺れ動いた。自然の猛威を前にしては、いかなる高貴な身分の者であろうと成す術がない。源氏はこのまま辺境の地で朽ち果てるのではないかという深い絶望に囚われた。しかし、都の政争に敗れ、自らの意志でこの地へと退いた手前、今さら泣き言を漏らすようにも漏らせない状況にあったのである。

そのような苦境にあっても、源氏の周囲には彼をしたって従う数名の家臣たちがいた。彼らは自らの不遇を顧みず、ひたすらに主君に忠義を尽くしていた。源氏はその誠実さに触れるにつけ、彼らをこのような不便な地へ巻き込んでしまったことを心苦しく思い、ただ彼らの行く末を案じては「まことに哀れに忍びない」と涙をこぼすのだった。

ある夜、源氏の夢の中に今は亡き父帝が現れた。父帝は「お前は海の底に沈むべき運命ではない。速やかにこの地を去るがよい」と厳かに告げたのである。夢から覚めた源氏は、これが神仏のお告げであると直感し、再び都へ戻る希望を抱くに至った。絶望の淵に立たされていた彼にとって、父帝の言葉はまさに一条の光にほかならなかった。

やがて、明石の入道という者が源氏を自らの館へ迎え入れたいと申し出てきた。その案内により、源氏は須磨のひなびた住まいから少しばかり離れた明石の地へ移ることとなる。そこで彼は新たなる運命の女性、明石の君と出会うことになるのである。都を離れてもなお尽きることのない源氏の数奇な運命は、ここに新たな局面を迎えたのであった。