夜空にうっすらと白く輝く天の川。その川のほとりには、はるか昔から一人の偉大な天の神様が住んでおられた。
神様には織姫という美しい娘がいた。彼女は朝から晩まで機の前に座って、神々や天人たちが身にまとう絹の着物をせっせと織り続けていた。
一方、天の川の向こう岸には、彦星という働き者の青年がいた。彼は天界の牛たちの世話をするのが仕事で、一頭一頭の体を磨き、餌をたっぷり与えてはかわいがっていた。
二人それぞれの仕事ぶりについては、すでに天界中で評判であった。神様も「二人とも、これほど真面目な働き手はそうそういない」と、日頃から深く感心しておられたのである。
そんなある日、神様は「これほどの働き者同士なら、夫婦にすればさぞ幸せに暮らすであろう」と、二人を引き合わせることに決めた。初めて会った織姫と彦星は、互いに一目で深い愛情を抱き、まもなくめでたく夫婦となった。
ところが、結婚を契機に、二人の暮らしぶりはがらりと変わってしまった。一緒にいるのがあまりに楽しすぎるあまり、二人はすっかり仕事の手を止めてしまったのである。
織姫は機の前に座っても、すぐに席を立っては彦星に会いに行ってしまうばかりであった。神々の着物はみるみるうちにすり切れ、新しい一着すら織り上がらない有様であった。
彦星もまた、牛の世話を放り出して、毎日織姫と笑い興じる始末であった。世話をされなくなった牛たちは、痩せ細って次々に病に倒れていった。
「夫婦になったまではよかったものの、このままでは天界の暮らしそのものが成り立たなくなりかねない」と、他の神々も顔を見合わせ、頭を抱えはじめた。
神様は二人に幾度も注意を与えたが、いっこうに態度を改める様子は見られなかった。ついに我慢が限界に達した神様は、声を震わせて怒りをぶちまけた。
「これほど言っても改めぬのなら、お前たちを引き離すほかない。今日この時を境に、二人は天の川を挟んでそれぞれ別の岸に住むがよい」と、神様は厳かに告げた。
そう宣言するや否や、神様は二人をあっという間に天の川の東と西へと引き離してしまった。広く深い天の川を、人の力で渡ることは到底できそうになかった。
二人は来る日も来る日も、川の対岸を見つめては涙にくれるばかりであった。当然のことながら、悲しみのあまり仕事に身が入るどころではなく、織姫の機織りもまた、ぴたりと止まってしまった。
あまりの嘆きように、神様もさすがに胸を痛めた末に、ある約束を交わすことにした。「もし以前のようにきちんと働くというのなら、年に一度だけ、七月七日の夜に限って会うことを許そう」と告げたのである。
その約束を心の支えに、織姫と彦星は再び以前のように、いや、以前にも増して懸命に働くようになった。再会の日を指折り数えて待つことこそが、二人にとって生きる希望にほかならなかったのである。
そしてついに、待ちに待った七月七日の夜が訪れた。すると、どこからともなく無数のカササギが飛んできて、互いに翼を並べ、天の川の上に一本の白い橋を架けてくれたのである。
二人はその橋の上で、一年に一度きりの幸せな再会を果たすことができた。涙ながらに抱き合う二人の姿は、夜空のどこからでも見ることができたという。
しかし、もし七夕の夜に雨が降ろうものなら、天の川の水かさが増し、橋を架けることがかなわず、二人はその年の再会を諦めるほかない。だからこそ、人々は毎年七月七日が近づくたびに、夜空に向かって晴れることをひたすら祈るのである。