昔、中国に、たいへん立派な磁器の宮殿に住む一人の皇帝がいた。その宮殿は世界でも比べるもののない美しさを誇り、四方には広い庭園が広がり、その奥には深い森と海とがあった。
森の奥には、一羽のナイチンゲールが住んでいた。その鳴き声は聞く者の胸を打ち、海辺で働く漁師たちさえ、夜更けに網を引く手を止めて、その歌に聞き入るほどだった。
外国からこの宮殿を訪れた旅人たちは、帰国するとすぐに、口々にその素晴らしさを書物に書き残して伝えた。中でも、彼らが「最も美しかったもの」として記したのは、宮殿の豪華さでもなく、皇帝の権威でもなく、ただ一羽のナイチンゲールの歌だった。
書物を手に取って読んだ皇帝は、たいそう驚いた。「私の庭の奥に、そのような尊い歌い手がいるとは、これまで知らなかった。すぐにここへ連れてきなさい」と、彼は家来に命じた。
家来たちは宮中を探し回ったが、ナイチンゲールのことを知る者は一人もいなかった。ようやく、台所で皿を洗っていた一人の少女が、毎晩、家へ帰る道でその歌を聞いていると申し出た。彼女の案内のもと、家来たちはついに森の奥の小鳥に出会えたのだった。
ナイチンゲールは、皇帝の前へと招かれた。地味な灰色の体だったが、ひとたび歌い始めると、その澄み切った声は宮殿のすべての耳を震わせた。皇帝は深く心を動かされ、目には涙さえ浮かんだ。
「これほどの歌は、聞いたためしがない。褒美に金の首飾りを授けよう」と皇帝は申し出た。しかしナイチンゲールは、「陛下のお目に涙が浮かんだのを見ました、それで私への褒美としては十分でございます」と澄んだ声で丁寧に断った。
ナイチンゲールはそれから宮殿にとどまり、毎日皇帝のために歌を歌うことになった。鳥籠の中に住まわされ、足には金の鎖がつけられ、見張りの家来が常にそばに控えていた。しかし、その心は次第に、自由な森を恋しがるようになっていった。
ある日、海の向こうの日本の帝から、皇帝への贈り物が届けられた。それは宝石をちりばめた、からくり仕掛けのナイチンゲールだった。ねじを巻けば、たちまち本物そっくりの声で歌い始めるという、目を見張るような工芸品だった。
宮中の人々は、新しいからくりのナイチンゲールに夢中になった。本物の鳥と並べて歌わせようとしたが、本物は一節ごとに違う節を歌い、からくりはいつも同じ調べを繰り返した。「同じ歌を何度でも聞ける、からくりのほうがすぐれている」と人々は口々に言いあった。
皇帝もまた、いつしか本物よりも、からくりの歌を好むようになっていった。森のナイチンゲールはやがて誰の目にも留まらないまま、開け放たれた窓から、こっそりと故郷の森へと帰っていった。それを気にする者は、宮中に一人もいなかった。
一年がたち、二年がたつうちに、からくりのナイチンゲールの中の歯車は、徐々にすり減っていった。ある日、ぜんまいがついに音を立てて壊れ、もう歌うことはなくなってしまった。職人たちは懸命に修理したが、もとのように歌わせることはできなかった。
月日が流れ、皇帝は重い病に倒れた。家来たちは新たな皇帝を選ぶための準備を、ひそかに進め始めていた。皇帝はひとり寝床に横たわり、夜ごとに迫ってくる死の足音を聞いていた。
ある夜、皇帝が目を開けると、寝床の上には「死」の影が、皇帝の冠と剣と旗とを手に取って座っていた。その周囲には、皇帝が生涯になした善い行いや悪い行いの数々が、亡霊のように浮かんでは消え、彼を苦しめてやまなかった。
皇帝は、もはやか細い声で「歌を、音楽を聞かせてくれ。これでは耐えられない」と必死に願った。しかし、からくりのナイチンゲールはとっくに壊れていて、ねじを巻く者すらもうそばにいなかった。室内には、ただ皇帝の苦しげな息と、死の沈黙だけが満ちていた。
その時、開け放たれた窓の外から、聞き覚えのある澄んだ歌声が流れ込んできた。森のナイチンゲールが、人知れず戻ってきたのだった。皇帝の苦しみを察した小鳥は、その身を窓辺にとめて、力を尽くして歌い始めた。
その歌声は、玉のような調べで、室内の闇を一筋ずつ照らしていった。死は冠を返し、剣を返し、旗を返し、ついには白い霧のように窓の外へと消え去っていった。亡霊たちもまた、ナイチンゲールの歌に追われるように、跡形もなく消え去った。
命を取り戻した皇帝は、深い感謝の気持ちをこめて、ナイチンゲールに長くそばにいてくれるよう願った。しかし小鳥はこう答えた。「私はやはり森に戻ります。ですが、毎晩、陛下の窓辺へとまいり、世の喜びと悲しみを歌いに来ましょう」と。
翌朝、家来たちが皇帝の死を覚悟して寝室の扉を開くと、彼らはそこに、生き返ったかのように朝の光の中で身を起こす皇帝の姿を見た。「諸君、おはよう」と皇帝は静かに告げた。窓の外には、もうナイチンゲールの姿はなかったが、遠い森のほうから、かすかにその歌が漂ってきていた。