今は昔、竹取の翁と呼ばれる老人がいた。彼は毎日のように野山に分け入って竹を切り取り、生活に必要なさまざまな道具にこしらえては、町でそれを売って細々と暮らしを立てていた。
很久很久以前,有一位被人們喚作「竹取翁」的老人。 他每天都要走進山野去砍竹子,把它做成日用所需的各種器具,再拿到鎮上去賣,靠這點微薄的收入勉強維持生計。
ある日のこと、いつものように竹林に踏み入った翁は、奥のほうで一本だけ根元がぼうっと光り輝いている竹を見つけた。不思議に思って近寄ってみると、なんとその竹の筒の中では、小さな手のひらほどの女の子が、ちょこんと座っているではないか。
一天,他像往常那樣走進竹林,忽然在林子的深處看到一根竹子的根部正泛著一層柔和的光。 他心中訝異,湊近一看,竟然在那截竹筒裡,端端正正地坐著一個僅有手心大小的女孩兒。
「これはきっと天が私のもとへ授けてくれた子に相違ない」と翁は思い、その子をそっと両手に抱えて家へと連れて帰った。子のなかった老夫婦にとって、この出会いはまさに長年の願いがかなった奇跡にほかならなかった。
「這孩子定是上天賜給我的吧。 」老翁這般想著,便用雙手輕輕地把她托起來,帶回了家。 對於膝下無子的老夫妻來說,這場相遇正是多年夙願終於得償的奇蹟。
その日を境に、翁が竹を取りに行くたびに、黄金がぎっしりと詰まった節を持つ竹を立て続けに見つけるようになった。家はみるみるうちに豊かになり、もはや細々とした暮らしは過去のものとなったのである。
自那一日起,老翁每次去砍竹子,都接連發現一根根竹節裡塞滿黃金的竹子。 家境眼看著便一日富過一日,從前那種緊巴巴的日子,轉眼間已成了過去。
不思議なことに、その娘はわずか三ヶ月のうちに一人前の女性へと成長を遂げ、世にも稀なほどの美しさを備えていた。やがて村の長老たちが集まり、彼女に「かぐや姫」という名を授けた。
不可思議的是,那個女孩兒只用了短短三個月,就長成了一位亭亭玉立的女子,容貌之美在世上也極為罕見。 村裡的長老們隨即聚到一處,給她取了一個名字,叫作「輝夜姬」。
かぐや姫の美しさといったら、見た者は誰一人として目を奪われずにはいられないほどであった。その噂はあっという間に都にまで届き、身分の高い貴公子たちまでもが、競って彼女に結婚を申し込みに来るようになった。
輝夜姬的美貌簡直無人能與之相比——任誰看上一眼,都難免被她深深地吸引住。 她的名聲轉瞬便傳到了京城,連身分高貴的公子們也紛紛爭相前來求婚。
中でも特に熱心だったのは、五人の高貴な公達であった。彼らは何としてもかぐや姫を妻にしようと、毎日のように翁の家の前に押しかけ、頭を下げ続けた。
其中最為執著的,是五位出身高貴的公子。 他們打定主意要娶輝夜姬為妻,每天都來到老翁家門前低頭央求,決不輕易作罷。
困り果てたかぐや姫は、一計を案じ、五人それぞれに別々の難題を出すことにした。仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の珠、燕の子安貝——およそ普通の人間の力では手に入れようがないものばかりであった。
難以推辭的輝夜姬左思右想,最終決定給五人各出一道幾乎不可能完成的難題。 佛祖的石缽、蓬萊山的玉枝、火鼠的皮裘、龍頸下的寶珠、燕窩裡的子安貝——任憑哪一件,都是尋常人力難以企及的稀世奇寶。
五人の公達は意気込んで宝を探しに出かけたものの、ある者は偽物にだまされ、ある者は嵐に遭って命を落としかけ、結局、誰一人として本物を持ち帰ることはできなかった。
五位公子皆豪氣干雲地啟程尋寶,可最終卻落得各種下場——有人被贗品所騙,有人遭遇暴風險些喪命,無一人能將真品帶回到輝夜姬面前。
かぐや姫の評判を伝え聞いた帝もまた、彼女の美しさを一目見ようと、自らお忍びで翁の家を訪ねるほどであった。しかし姫は、帝の前でさえ姿を消そうとし、決して首を縦に振ることはなかった。
聽聞輝夜姬美名的皇上也按捺不住,竟然親自喬裝出訪,跑到老翁家裡只為親眼一睹其容顏。 可輝夜姬即便面對皇上,也想要隱身而退,絲毫不肯點頭答應。
それでも帝は諦めず、かぐや姫のもとに繰り返し歌を贈り続け、姫もまた礼儀正しく歌を返した。二人の間には、結ばれることのない不思議な情のような絆が、しずかに育っていったのであった。
然而皇上並未死心,仍然不斷派人將御製的和歌送到輝夜姬手中,姬也以禮相對,工整地一一回贈。 兩人之間,慢慢生出了一份注定無緣相結的奇妙情誼。
やがて秋が深まり、夜空に満月がひときわ美しく輝く頃になると、かぐや姫は毎夜縁側に座っては月を見上げて、深いため息をつくようになった。心配した翁が幾度も理由を尋ねた末に、姫はついに重い口を開いた。
不知不覺間,秋色漸深,每逢滿月在夜空中皎潔如洗地升起時,輝夜姬便每夜獨自坐在廊下抬頭望月,幽幽地長嘆。 擔憂不已的老翁屢次追問緣由,姬終於沉沉地開了口。
「実は、私はもともとこの国の人間ではなく、月の都の住人なのです。次の満月の夜には、迎えの者が降りてきて、私を月へと連れ帰ることになっているのです」と、彼女は涙ながらに打ち明けた。
「實不相瞞,我本就不是人間之人,乃是『月之都』的居民。 下個滿月之夜,便會有迎接我的人從天上降臨,要把我接回月亮上去。 」她含淚如此說出了真相。
翁とその妻は、わが子を奪われるかのような深い悲しみに沈んだ。話を聞いて驚いた帝は、何としてもかぐや姫を守り抜こうと、数千人の屈強な兵士を翁の家の周囲にぐるりと配備した。
老翁和老妻頓覺如同親生骨肉將要被人奪走,悲痛萬分。 聽說此事大為震驚的皇上下令,無論如何也要守住輝夜姬,便派出數千名身經百戰的勇士,把老翁家團團圍住。
いよいよ運命の満月の夜が訪れた。月の中ほどから、目もくらむほどのまばゆい光がさしてきたかと思うと、その光の中から、雲に乗った天人の一行がしずしずと地上へと降りてきた。
命中注定的滿月之夜終於到來。 月輪中央射出一道令人無法直視的耀眼光芒,緊接著,一隊乘著祥雲的天人隊伍便從那光芒中徐徐降到了地上。
兵士たちは矢を放とうとしたが、その光に目がくらみ、手も足も思うようには動かなかった。とても戦うどころではなく、ただ立ち尽くすほかなかったのである。
兵士們想要張弓搭箭,可那道光照得他們眼花繚亂,手腳也不聽使喚。 哪裡還談得上交戰,他們只能怔怔地站在原地,束手無策。
天人の長は厳かに告げた。「かぐや姫は罪あって地上に下されたが、その時もすでに満ちた。もはや一刻も留まることはできぬ」と。
天人的首領神情莊嚴地宣告:「輝夜姬當年因有罪被貶至人間,刑期如今已滿。 她無法再在此地多停留哪怕一刻。 」
かぐや姫は涙にむせびながら、翁と妻に深々と頭を下げ、これまで育ててくれた恩を心からの言葉で謝した。そして、別れの記念にと、帝への手紙と不死の薬を残し、天の羽衣をまとった。
輝夜姬含淚深深叩拜老翁夫婦,發自肺腑地謝過他們多年的養育之恩。 隨後,她將一封寫給皇上的書信與一瓶不死之藥留作離別的紀念,披上了天人之羽衣。
羽衣を肩に羽織った瞬間、かぐや姫の心からは地上の記憶も愛着もすうっと消え去り、振り返ることもなく月の都へと昇っていったのである。
羽衣一披上肩頭,輝夜姬心中關於人間的所有記憶與眷戀便霎時消散,她頭也不回,徑直向月之都升去了。
残された翁夫婦は、悲しみのあまり食事も喉を通らず、なすすべもなくただ泣き暮れるほかなかった。後に帝は、不死の薬を「姫のいない世で長生きしても何になろうか」と嘆き、駿河の国の山頂で焼かせたという。その煙が今も絶えず立ち上り続けているのが、富士の山だと語り伝えられている。
被留下的老夫婦悲傷至極,連飯也嚥不下,只能終日以淚洗面。 後來,皇上望著那瓶不死之藥慨嘆:「公主既已不在,縱使長生不死,又有何意義? 」便命人將其抬到駿河國的山頂上焚毀。 那縷青煙據說至今仍在山頂裊裊升騰不息——人們說,那座山便是富士山。